野の窯だより2022年2月

野の窯だより　２月

ベニマシコ　オス
青ジソの種が大好きらしい
毎日のように通ってきます

　２，３年前の個展のとき、会場で年配の男性に声をかけられた。
　聞けば、数年前に奥様を亡くし、最近ようやく痛手から立ち直り、友人たちと趣味や旅行を楽しめるようになったのだけれど、楽しむにつけ、自分ばかり楽しんで、と亡くなった奥様に申し訳ない気持ちになり、せめて大好きだった花をたくさん、大きな、ちょっと贅沢な花瓶に飾ってあげたくて、花瓶をずっとあちこち探しているのだけれど、なかなか見つからない、ということだった。そのとき、私の会場にも、彼の思うような大きさ、形のものはなく、肩を落として帰って行かれた。彼の思いつめたような切実な話を聞くのに精いっぱいで、何処のどなたとも聞きそびれ、きっともうたぶん二度と会えることはないと思う。
　が、
　お気に入りの花瓶が見つかって、花いっぱい飾ってあげられている日々であったらいいなあと、仕事をしながら時折思い出していた。
　誰かのために。あるいは、好きな花の１本のために。この花のために。
　そんなことを思いながら。